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不思議その1、鴨南蛮の鴨とはなにか? |
かの北大路魯山人は、パリの老舗レストラン、トゥールダルジャンで鴨料理を食べたとき、「これはアヒルだ!」と言い放ったそうです。
魯山人にならって蛮勇をふるって言えば、ぶっちゃけ蕎麦屋の鴨南蛮の鴨も、フレンチレストランの鴨と同じくアヒルです。
ところで、鴨南蛮に使っているのは合鴨だ、とおっしゃっているそば屋さんも少なくありません。これはどういうことでしょうか。
実は肉屋さんの業界では、食肉用品種のアヒルのことを合鴨というのが長年の慣習なのです。そば屋さんでも、そのあたりごぞんじ無いかたも多く、肉屋さんのこの特殊な慣習のために、本当に合鴨だと信じ込んでいることが多いようです(実は私もそうでした)。そば屋さんも悪意があって偽装しているのではありません、
ちなみに英語では、鴨も duck 、アヒルも duck です。フランス語でも同様に両方とも canard です。これは鴨とアヒルを区別する日本語ゆえの混乱ともいえます。
しかしアヒルを鴨や合鴨といって良いものなのか、疑問は残ります。そこで消費者庁に問合せの手紙を出したのですが、まったく音沙汰無し。黙殺されてしまったようです。(2010年10月 1日)
それはともかく、アヒルは食べるための家畜ですが、いくらおいしく食べるために品種改良したとはいえ、アヒル南蛮じゃあ 食欲湧きませんよねぇ。ですから、そば屋が鴨南蛮といっても大目にみてください。
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消費者庁からのお返事
2010年10月5日火曜日、消費者庁表示対策課S様より「電話又は来庁の方法で質問に対する回答を行っております」と、文書での回答はできない旨のお返事をいただきました。来庁といっても東京まで行くわけにもいかないので、電話をかけてみました。ご丁寧に長時間にわたってご回答いただきましたが、要約しますと消費者庁見解としては以下の2点になります。
- アヒル肉を使用していたとしても、料理名として「鴨南蛮」と表示してもかまわない。
- ただし、お客様に鴨南蛮に使っている肉は?と尋ねられたら、本鴨や合鴨と答えるのは好ましくない。アヒルと答えるほうがよい。
お手数をおかけした消費者庁の皆様には、この場をかりてお礼申し上げます。 |
さて、いま鴨南蛮によく使われている主なアヒルは以下の3品種になります。
| ・ペキン種 |
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主に中国産です。中国でマガモ(真鴨)を何千年の長い間に飼いならしてできた品種です。多くの人がアヒルと聞いたときに思い浮かべる、あの白いアヒルです。中華料理で丸焼きにするのはこのアヒルです。 |
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| ・チェリバレー種 |
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ペキン種をイギリスで品種改良したもので、ペキン種に似た白いアヒルです。日本でも多く飼われています。そば屋さんが「国産の合鴨をつかっています」と言っていれば、たいがいチェリバレー系品種です。 |
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| ・バルバリー種 |
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ペキン種とチェリバレー種は真鴨の子孫ですが、バルバリー種はノバリケンという南アメリカの野鴨の子孫です。顔が赤く、体の色は白または灰色で斑模様もいます。
フランスで改良された品種です。このアヒルは、フレンチレストランの鴨料理によく使われるので フランス鴨ともいいます。
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バルバリーを本鴨と表示した一例 |
食肉業者さんの中には、これを本鴨と称して販売しているところもあります。 |
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不思議その2、鴨南蛮の南蛮とはなにか? |
唐辛子のことを南蛮ともいいますが、鴨南蛮の南蛮とは唐辛子ではありません。そば屋ではネギを使ったそばを南蛮といいます。たとえば天ぷらそばに煮た長ネギが入ると、天ぷら南蛮(略して天南)というようにです。そば以外で、南蛮がネギだという例は他にないところも、実に不思議ではありませんか。
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不思議その3、鴨南蛮と親子そば? |
親子丼と親子そば、似た者どうしですが起源は全く別もので、赤の他人だったようです。
親子丼の起源は、玉ひでという軍鶏料理屋で、明治20年ころに作ったのが初めだといわれています。
一方「親子そば」は、幕末に書かれた守貞謾稿という本には、もうすでに載っていますので、親子そばのほうが先に誕生したことになります。
ただし、江戸時代の親子そばは、いまの親子そばのような ニワトリ肉と鶏卵ではなくて、鴨南蛮を鶏卵でとじたものだったそうです。
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不思議その4、鴨ぬき? |
そば無しの鴨南蛮を「鴨ぬき」といいます。鴨南蛮からそばを抜くからそう言います。たまに、鴨南蛮から鴨を抜いたものだと誤解されるかたもいらっしゃいますが、それでは「かけそば」になってしまいます。おおかたのそば屋さんでは、裏メニューでお品書きにのせていません。
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不思議その5、ニワトリとは真逆?胸肉とモモ肉 |
ニワトリ肉の場合、胸肉よりもモモ肉のほうが値段が高いのですが、鴨(またはアヒル)の肉は逆で、モモ肉より胸肉のほうが高いのです。理由は単純で、胸肉の方がやわらかくておいしいから。ちなみに胸肉のことを、抱身(だきみ)とかロースともいいます。
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不思議その6、合鴨農法の合鴨は食べられない? |
合鴨農法というお米の栽培方法があります。田んぼに合鴨のヒナを放して、雑草や害虫を退治してもらおうというものです。合鴨は2~3ヶ月でおとなになりますから、毎年大量の合鴨が生産されているはずなのですが、なぜか肉屋さんに出ることはありません。これもまた不思議なことです。
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不思議その7、おそば屋さんの普通のそばはモリなのに、なぜ鴨だけセイロ? |
ふつうのそばはモリなのに、鴨だけ鴨セイロっていうおそば屋さん多くないですか?
見ようによっては、なにも考えずにパクったようにも見えますが、たぶん鴨セイロを始めた藤沢の元祖鴨南蛮本家へのリスペクトだと思います。
鴨セイロは、1935年(昭和10年)に藤沢の元祖鴨南蛮本家というお店がはじめたといわれています。藤沢の鴨南蛮さんは、江戸時代に有名だった鞍掛橋鴨南蛮の流れを汲む老舗です。
ちなみに、藤沢の鴨南蛮さんは、ふつうのそばもセイロです。
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