Q&A |
ホームページをご覧いただいた皆様からのご質問です。 |
Q さらしな粉の使い方2 |
2014年01月24日 |
先日は更科そばにつきまして、早速アドバイス有難うございました。 さて、更科そば打ちは、どうにか蕎麦にはなりましたが、少し心もとないので再度確認させていただきたくご連絡差し上げます。 柚子切り蕎麦の4.の行程で、蕎麦粉の糊を入れて水回しに入りますが、写真右のように「すりあわせるようにして、糊とそば粉を混ぜ合わせ・・」ここでは、混ぜ合わせた後に、普通の蕎麦打ちの用に指先で、充分にそば粉に水回しすれば宜しいのでしょうか、蕎麦の塊が大きくなりだしたらこね鉢に上から押し付けるような作業をするように書かれた書もございますが、このような作業をしないとくくりが出来ないように思われますがアドバイスをお願いします。 お忙しいとは存じますが、なにとぞ宜しくお願いいたします。 |
A 答 |
ご質問はいわゆる「そば練り」あるいは「練り込み」と言われる作業をはしょっているのはなぜかということだと思います。 練りをやっていただいても構いません。 というよりぜひ、やってみてください。 ご自身でやってみるのが一番だと思います。 やってみて違いが出たら良い方を採用してください。 違いが出なかったら、コストのかからない方、 手間のかからない方あるいは好みの方を採用してください。 手間をかけた方が達成感があって美味しく感じることもあります。 私どものホームページにある柚子切りは先日も申しました通り普通のそばを打つような感覚で打てるものです。練り込みをするには、それなりの環境が必要だと思います。(それなりの大きさの木鉢とか、木鉢を固定できる環境とか、踏ん張れるスペースとか)趣味でそばを打っている方向けのホームページですから、素人の方でも出来るように心がけています。 糊で水回しをする場合擦り合せるようにした方が全体に均一に近くなると思います。あとは微調整の水を少しずつ足してやりながら普通に水回しをしてもらえば良いと思います。追加の水が一カ所に集中したら水の少ない所と擦り合わせてなるべく均一にすれば基本的な感覚や手順は普通のそばを打つのに近いものだと思います。 おっしゃるようなやり方をいつもなさっておいでなら そうなさっても構わないと思います。 技術的なことを説明するのは不得手ですが、せっかくですから説明しておきます。 長文かつ悪文になると思いますので読まずにご自身で試してみるのが時間の節約になることをお断りしておきます。 一般的な更科そばの打ち方は、粉の上に熱湯を注ぎ水回しをして扇風機などで風を送って温度を下げたり、ビニール袋などに入れ暫くおいて放射熱で温度を下げます。熱いままの生地をそのまま延すと表面積が広がり気化熱で温度が下がり表面の乾燥が起ります。ぬれたタオルを絞ってそのまま置いたのと広げて置いたのとの違いを考えてみれば当たり前のことと納得いただけると思います。最悪の場合ひび割れを起こし延している間にバラバラになってしまいます。バラバラにならなくても表面の乾燥は茹でむらを起こし食感の悪い、いわゆる歯ヌカリするそばになってしまいます。 気化熱で温度を下げた場合、当然そばの小さい玉の表面と中心部では含水量が違ってきます。均一化させないと食感の悪いそばになってしまいますし、部分的に乾燥しすぎている場合があるので、揉むより練るようにします。 普通のそばでも練る工程を入れる所があります。東京の老舗やその流れを汲む所が多いようです。江戸そばの基本である小麦を混ぜることに由来するようです。西日本などで小麦粉を入れる所は練らずにうどんのように踏む所もありますし、昔からのからそば産地では小麦を入れずそばだけあるいは山芋やヤマゴボウなどをつなぎにしている所では練らずにとにかく良く揉むというやり方が多い様です。 ご存知だと思いますが、小麦粉のグルテンを利用してつなぐと言いますが、小麦粉にはグルテンが入っていません。小麦粉に含まれるグリアジンとグルテニンが水と交ざってグルテンになります。グリアジンとグルテニンを水と反応させるためによく揉んだり練ったり踏んだりするわけです。グリアジンとグルテニンを充分にグルテンにしておかないと、生の小麦粉を口に入れたときのような匂いがします。初心者が手捏ねでパンを作ったときよくそういう匂いがすることがありますので経験されているかもしれません。 ズル打をする蕎麦屋などで出てきますのでそっちの方が体験しやすいかもしれません。その辺の事情が分かっている人が褒めなければならなくて、さりとて嘘もつけずという状況だと思うのですが、「穀物の薫り」がすると言ったのが良いようにとられ褒め言葉のように一部で使われているようです。もちろんそばのひねた匂いも含まれるのだと思いますが。「穀物の薫り」は真っ当なそばに対して使うことばではないと思います。 話がそれてしまいました。グルテンをしっかり形成していない、ズル打のそばの場合『穀物の薫り」ではなく、昔からの表現で「粉っぽい」ということもあるようです。小麦を入れることが当たり前の江戸そばで「小麦粉臭い」というと小麦を入れることが悪いことのように聞こえるからでしょう。 その江戸そばの流れを汲む老舗の多くが手捏ね機械打ちで、少加水で大量のそばを捏ねないといけないわけで、かといって、手打である限りは足で踏むわけにも行かず体重をかけて練るという方法になったのだと思います。手打そばの手打と言っていた時代は製麺機が出来るよりずっと古く、足で踏まず手だけで作った高級なそばというような意味で使われていたようです。 小麦を入れた場合、練りは馴れれば時間の短縮になると思いますが、1.5キロ程度なら1〜2分位の差でしょうし、やってもやらなくても良いと思います。要はグルテンを充分に形成してやることですが、ズル玉の柔らかい生地でなければ手触りや匂いでどれくらい捏ねれば良いか分かるはずです。 ビニル袋などで蒸発を防ぎ温度を下げた場合ですが、ズル玉でない限りは時間を置くと生地が硬く締まってそのままでは打てなくなっています。揉むか練ってやって柔らくしてやらなければなりません。この場合は練った方が効率がいいようです。というより練った方が効率の良い位の加水量の方がそばがおいしいような気がします。 余談ですが、十割そばの場合、練りをするとそばの弱い結合力にダメージを与えるのかボロボロに切れてしまうことがあります。また小麦粉が入っていないそばでもよく捏ねた方が美味しいようです。 水回しが済んで2つに分けて括ったそば玉を、大体つながるくらいに捏ねたのと、その倍以上捏ねたのをブラインドテストをしてもらって倍以上捏ねた方が美味しいといってもらったこともあります。どうしてそうなるかは分かりません。 喜心庵のホームページで練りを入れなかったのは予め冷ましたそばがき(そばのり)を使いますので冷ます必要もなく、食感や味に影響が出るほどの乾燥も起きませんし、連続した工程で作業をするので硬く締まること無いからです。 ふつう、さらしな粉はデンプンの薫りがしてあまりそばの薫りは無いのですが、たまに、ほのかにそばの薫りがするものがあります。そういうのに熱湯を注いでしまうと薫りがとんでしまいます。これは気のせいではありません。普通のそばを50〜60度位のお湯で湯ごねしたものと水で普通に打ったものとで比べていただければ瞭然だと思います。 東京のさらしなそばの老舗の中には湯ごねと卵水つなぎのものを合わせ扇風機などで温度を下げたり時間を置いたりしないでそばを打つ所もあるそうです。 そばの打ち方は色々です。 最後までお読みいただけたことを感謝いたします。 |