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民間療法と蕎麦(村瀬忠太郎 蕎麦通 昭和5年) |
民間療法はその地方によって、さまざまなものが用いられているが、蕎麦粉を用いる療法の一、二を挙げる事にする。無論この療法以外に、なお幾多使用されているであろう。 糖尿病 糖分の含む食物を禁ぜられている病気であるために、米飯は一般に病の性質上悪いので、蕎麦はその代用食として、最も適したものである。私が知っている地方の医者は、この糖尿病にかかった時、三年間蕎麦がきと鶏卵で栄養を摂って、完全に治癒した例がある。 腫物 十個ほどの 腎臓病 田螺の殻を去り、肉をすりつぶし、蕎麦粉を適宜に混じ、粘り気のあるものを、和紙に塗りつけて臍の周囲に貼り付けし、乾いたら新しいものと、張り替えると浮腫は減退するといわれている。 ここで付記しておきたいのは、蕎麦と田螺は食い合わせて害のあるものと、昔から伝えられていることである。果たして食い合わせると中毒を起こすか否かは知らないが、内服ではなく外用の塗布薬だから、蕎麦と田螺が害のあるものではない証拠は、民間療法を実際に行っている土地があることによって明瞭である。以上は現代の素人療法として、挙げた例で、往昔には、薬となるもの毒となるものが、相応にあった。それも摘記して見ることにしよう。以下はすべて昔の説である。 毒無し 河漏(蕎麦の古名)は毒無し。気を静め、腸を緩め、脾胃の湿熱を去り、白帯白濁泄瀉を治す。産後婦人食すべからず。 (『懐中食性』)
忌む病 河漏を忌むは、中風、痢病、喘息、水腫、脹満、虚損、労瘵、眩暈、癇癪、脚気、痛風、黄疸、吐血、下血、癰疽、金瘡、妊娠、痘疹の諸症とす。多食して (『同食禁』)
西瓜との害 俗に河漏と西瓜とを同食すれば腹痛す。速やかに吐瀉を得ざれば、速に死すという。これは古来未聞の談なり。今試しに河漏を西瓜の汁に浸し置けば、暫くして堅く木の如し、これ二物相反すること明なり。また蕎麦を焼いて灰汁を取り、柔なる箒をもって、古器物を洗えば、久年の垢速に脱すること奇なり。蕎麦を大食して飽満ちしにも之を用うべし。蕎麦の中毒には (『本草啓蒙』)
悶死の説 蕎麦多く食い、西瓜と同食せば則ち煩悶して死に至る、但し先に西瓜を、後に蕎麦を食せば則ち害せず。蓋し西瓜は水なり。而して速に下す故合食の難を遁るなり。蕎麦粉と大黄末と二味にて能く用う、便毒腫痛を治す。此方を以て家秘となす。蓋し大に瀉下する脾胃虚寒の者は服すべからず。又云う蕎麦を多く食して湯に浴せば、則ち食傷して死に至る。 (『和漢三才図会』)
胃腸薬 蕎麦は気味甘く、寒に微にして毒無し。気を降し腸胃の滓穢積滞を寛にす。水腫白濁泄痢腹痛上気を治し、或は気盛にして湿熱ある者によろし。又小児天弔歴節風を治す。世謂う蕎麦切を多食せば風気を動かし、若し蕎麦切を食して湯に浴せば必ず卒中して厥倒す。或は蕎麦性温にして、多食せば癰瘍毒を発すと。予の意之を疑う、蕎麦性平にして微寒。気を降し腸を寛にし滞を消す。即ち希に之を食う、何ぞ動風の理あらんや。毎に之を食するも (『本朝食鑑』)
鬚眉脱落の説 若し脾胃虚寒の人之を食せば、大に元気脱し鬚眉を落とす、孟詵が気力を益すというは殆ど未だ然らずと。 (『李時珍』)
未明丸 妊娠して腹満ち、大便燥結したるには、朱明丸蕎麦一両大黄三両を末となし、糊にて丸にし毎服一銭。 (『子産論』)
温麺と冷麺
今温麺を多食する者は腹に満たざれば止めず、故に往々中傷す。麺を食うに夏月も温麺可なり。冷麺を多食すれば諸病を生ず。 (『大和本草』)
云々、ここに麺というは多く 以上の他に本草綱目には、非常に多くの薬用としての蕎麦を掲げてあるが、今日はその必要のないものは、略すことにした。 |