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 薬味  (村瀬忠太郎 蕎麦通 昭和5年) 

 蕎麦の薬味は、通常おろし大根、刻み葱、蕃椒または七味唐辛子を供し、笊と種物にはおろし山葵を供する。昔はからみ大根とて特に辣味ある生大根の絞り汁に生醤油を加えて蕎麦につけて食い、あるいは胡椒、 、梅干を薬味として食った時代もある。地方では今でも花かつおと葱とからみ大根の絞り汁を用いている。山葵醤油、胡桃醤油、胡桃味噌などを用いて食うところもある。

 『寛永料理物語』には、
 大根の汁、花かつお、おろし、あさつきの類、からし、わさびを加へてもよし。

大田南畝の 『 奴師労之』 には、
 昔は蕎麦を振る舞ひし後に、必ず角切額の豆腐を味噌に煮て出せしが、近頃はなし。豆腐は蕎麦の毒を消すといへり。
と言っている。信州地方では、

味噌を牡丹餅ほどの大きさに丸め、強き火にてよく焼き、味噌の焼ける間に、おろしがねにて大根をおろし、直に布巾に包みてよくその汁を絞り、右の味噌を加え箸にて普通の味噌汁ほどの加減に溶かし、鍋に移して細かに刻みたる葱をその中に入れ、中火にかけて沸騰せしめた汁を蕎麦につけて食う。

 といい、また時季により雉子山鳥の肉、あるいは焼鮎の煮出汁を味噌に和し、薬味を加えて食うこともある。

 からみ大根というは、矮小な大根の一種で極めて辛辣な味を持ったものである。それが蕎麦には最も適した薬味で、近江の伊吹山産を本場とし、信濃、越後地方磽确の山地に産するものが好い。この種を東京付近へ移植しても持ち前の味は変わってしまうが、普通の大根でもなるべく末の方をおろしがねでおろして用うれば多少の辣味が得られる。

 葱の臭気を厭う人には、洗い葱といって、水でさっと洗ったものを供する。気を付けて見ると、出前の薬味皿にある葱には青い部分が入っており、店での薬味皿にある葱には白い部分のみが入っているところがある。これは中古からの風習であって特に咎むべきではない。

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