そばの境界線
  2011年11月 1日
   
 

■ 手打そばと乾麺のそばと生麺のそば

 本来、手打そばと,乾麺のそばと,生麺のそばは呼称は同じ「そば」でもそれぞれ違う食材だと思っています。

そばだからといって、手打そばと乾麺のそばを安易に比べるほうが間違っています。 同じ自動車だからスポーツカーとトラックを同じに見る人もいないと思います。 スポーツカーにはスポーツカーの良さがあるでしょうしトラックにはトラックの良さがあります。これからお読みいただくのは、それを踏まえた上での話です。

■ そばの小麦粉

 そばにいれる小麦粉の量を増やすことを、悪い事のようにいう人がいますが,私はそば粉の配合割合の多いそばがイコール良いそばだとは思いません。 そのようにいう人には、小麦粉を混ぜるのが悪いなら、うどんや素麺はさぞかし不味いでしょうね。と言って嫌な顔をされます。

そば粉の配合割合だけを、やたらこだわると、食べ物としての品質を考慮せずつながり易さだけでそば粉を選ぶ事になりかねません。 質の悪いそば粉を使った8割そばより質の良いそば粉を使った5割そばのほうがおいしいと言う事もあります。 良いそば粉に出会ったら、クセの少ない良質な小麦粉をつながるだけ混ぜてやれば良いんです。

コスト意識の高い業者さんの中には効率を挙げるために小麦粉を多く使ったり、質を無視してできるだけ安いそば粉を使う傾向がある事は否めませんが、必ずしも小麦粉の多いそばイコール悪いそばとは言えません。

とは言っても、小麦粉を8割,9割入れちゃって「そば」といっていいのか。 いいかえると、「そば」と呼べる境界はどこにあるのでしょうか。

■ 3割ルールは本当?

 よく耳にしたり目にするのがいわゆる「3割ルール」というものです。JAS法によりそば粉が3割以上入ってなければ「そば」と呼べないということです。

以前、そばと呼べる限界についてのご質問がありましたが、最近消費者庁の創設などずいぶん変わって来たようなので、あらためて調べてみました。

そばの品質を定める統一基準はありません。 乾麺、生麺、即席麺などそれぞれについて基準や目安があり,それぞれに抜け道もあります。

私なりに調べて、なるべくわかりやすく、正確に書いたつもりですが、長文になってしまいました。我慢して読んでいただければ有り難いです。

最後のほうにまとめて分類して一覧してみました。おかしな誤解をしないようお願いします。

■ 飲食店のそば、ホームメードそばの基準

個人の趣味で打つそばに規制などありません。打った人間が「そばだ」といいはれば「そば」です。

そば屋を含めて一般飲食店で出す調理済みのそばについても規制はありません。もちろん5割そばや2割そばを「8割そば」や「いわゆる二・八です」として売れば虚偽表示や優良誤認になり処罰の対象になる可能性もあります。

色々工夫して食感や香りがそばに近い、そば粉0%の麺を開発して、「そば粉の入っていない、そばアレルギーにも安心なそば」と言って出したとしても問題ありません。

伝統的には中華そば,焼きそば、支那そばなど、そば粉が入っていなくても「そば」の名を付けて出しています。

■ 乾麺のそばの基準

 しかし市販される乾麺や生麺や即席麺では一応の基準があります。

乾麺の規格は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」に基づく「乾めん類の日本農林規格」平成21年4月9日農林水産省告示第 485号によって定められた基準と、同法に基づく「乾めん類品質表示基準」平成23年9月30日消費者庁告示第 10号に定められた基準とがあります。

「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」は日本農林規格法とも呼ばれ通称のJAS法と言うほうが知名度が高いと思います。 農林水産省告示はJAS規格を定めたもので、消費者庁告示はそれ以外の一般規格を定めたものです。

農林水産省告示のJAS規格では乾麺のそばは「干しそば」と称しJAS標準とJAS上級に分かれます。

JAS標準はそば粉4割以上、JAS上級は同5割以上でなければなりません。 JAS規格ではそばはそば粉4割以上という事です。 ということで、JAS規格でそば粉3割というのは間違いです。

8割そばとか十割そばと表記した干しそばを見かけますが、そういったそばがJAS上級のそばという訳ではありません。

JAS認定機関に申請して認められた物のみが、JASマークを付ける事を許されるからです。いくら品質が高かろうが、そば粉をたくさん使っていようが勝手にJAS上級を名乗る事は出来ないのです。

JASマークのついた乾麺はほとんど見かけませんし、干しそばに到ってはJASマークが付いたものを見た事がありません。 これは製麺業者がずるいとか怠慢とかと一概には言えることではありません。 JASの認定は国の仕事ではなく民間団体である、JAS認定機関が行ないます。 認定申請は検査料も含め結構高いものだと聞いております。 JASを取れば高値で飛ぶように売れる訳でもないのですから、中小企業の多い製麺業者にとっては、かなり高いハードルとなっているようです。 干しそばの中にはJAS基準を軽くクリアしているものもあると思うのですが……

JASマークさえ付けなければ野放しという訳ではありません。 そこで登場するのが先の消費者庁告示です。 同告示第2条には、乾めん類のうち、そば粉を使用したものを「干しそば」と定義しています。

つまりそば粉が少しでも入っていれば「そば」なのです。 ただし、そば粉の配合割合を明記しなければなりません。 パッケージの裏をよく見ると、そば粉の配合割合2割とか15%と記載されたものも見かけます。

しかし、そば粉の配合割合を書いてないもののほうが圧倒的に多いと思います。 それは、そば粉の配合割合3割以上の干しそばは、そば粉の配合割合の記載を免除されているからです。(同告示第3条第2項但書)

これがそば粉が3割以上入っていなければ「そば」と呼べないという「3割ルール」の元になったのだと思います。

ですが、配合割合さえ記載すれば3割未満でも「そば」と称して売っても構わないことになっています。

■ 生めんのそばの基準

 生麺についてはJAS規格でも、消費者庁告示でも定められていません。 ここで言う生麺は正式には「生めん」と表記するべきもので製麺業者が作ってスーパーなどで売られているものです。

生麺については「生めん類の表示に関する公正競争規約」という基準があります。 公正競争規約とは「不当景品類及び不当表示防止法」(景表法)11条により、事業者団体などが自主的に定めたものです。この規約は消費者庁長官が認定するなど団体の内部規約でありながら消費者庁の管轄下におかれます。(以前は公正取引委員会が管轄していました。)

公正競争規約には、違反者に対し違約金を課したり、除名処分などの罰則もあります。 全国生めん類公正取引協議会に加入している事業者は規約に従って製造販売する生めんの包装には「公正マーク」を表示することができます。

私の注意不足かもしれませんが,公正マークの付いた生めんの「そば」を見た事がありません。

くだんの「生めん類の表示に関する公正競争規約」第2条第3項は以下のように定めています。

「この規約で「そば」とは、そば粉30%以上、小麦粉 (灰分が 0.8%以下のものに限る。)70%以下の割合で混合したものを主たる原料とし、これに水を加えて 練り合わせた後製めんしたもの又は製めんした後加工 したものをいう。」

この条文から生めんも3割なんだと考えるのは早計です。 よく読んでいただければお判りだと思いますが、そば粉30%小麦粉70%の混合そば粉を主原材料として、さらにグルテンやでんぷんなどを入れれば結果として3割以下でも「そば」と表示できる事になります。

主たる原料の定義は「全国生めん類公正取引協議会」は、外分比で主原料を100とした場合、20未満、主原料に対して、いわゆる外2未満を副原材料としているので 100÷120 で83.3% 以上使うのが主たる原料だそうです。ということは、「生めん類の表示に関する公正競争規約」では30÷120=25%以上が「そば」ということになります。

これらの点は、現在、消費者庁と関係団体で検討中だそうです。

もっとも、JASマークと同じく公正マークなしで製造販売する事も出来ますし、日本は営業の自由、結社の自由が認められる自由主義の国ですから、団体に属さなくても製麺業はできます。 公正競争規約をふまえて、業界団体のガイドラインや消費者庁などの指導はあるようですが、それらには特に罰則はありません。一応3割以上を建前としている事からか,干しそばのような配合割合の表示義務もありません。 公正マークを違法に付けなければ、生めんのそばにおけるそば粉の配合割合は製麺業者の良心にまかされているということです。

生めん類の表示に関する公正競争規約の施行規則には、「生そば」と表示する事は禁止されています。 そば屋や飲食店、消費者の多くの間ではでは「なまそば」の意味や普通のそばと同じ意味で使われ本来の意味は失われつつあるとはいえ、まだそば粉100%のそばという本来の意味は完全には失われていないようです。

余談ですが、乾めん(干しそば)で、「きそば」の名前で売っている商品を見かけた事があります。 これは、消費者庁告示「乾めん類品質表示基準」の第5条第1項第3号(表示禁止事項)に抵触するような気がするのですが、ひらがなで表記しているからセーフなのですかね。 「きそば」が本来意味するところを知らなければ、明らかに勉強不足ですし、知らないこと自体、(干し)そばのメーカーとして恥です。

また、生めん類の表示に関する公正競争規約の施行規則によれば、 信州そばは水分を除く全重量のそば粉50%以上、 出雲そばは水分を除く全重量の50%以上のそば粉を使用しなければなりません。 沖縄そばはそば粉を入れてはいけません。 そば粉を一切使わず「そば」を付けて販売できるのは「沖縄そば」だけです。 では、中華そばや焼きそばは?と思われるかもしれませんが、それらは商品名で、パッケージの裏などの一括表示にある名称や品名の欄に「中華めん」か「ラーメン」と表示しているはずです。

■ 冷凍麺のそばの基準

冷凍麺は生めんに分類され「一般社団法人 日本冷凍めん協会」が独自の厳しい衛生基準を作りRMK認定制度を制定しておりますが、品質表示に付いては「生めん類の表示に関する公正競争規約」によっているとのことです。

■ 即席麺のそばの基準

カップ麺など即席めんの「そば」ですが、即席めんのJAS規格にはそばの配合割合の定めは無く、「即席めん品質表示基準 」平成23年9月30日消費者庁告示第 10号の第5条の(3)により「そば粉を使用しているものであって、そば粉の配合割合が30%未満のものにあっては、そばの用語」を使用してはならないと定めいます。

さらに「即席めんの表示に関する公正競争規約」の施行規則の第3条(特定事項の表示基準)によれば、使用原料粉の重量に 対する配合割合で、そば粉を30%以上使用しなければ「そば」として販売できないとしてあります。

即席めんは生めんの基準より数字の上では厳しい基準を明確に採っています。 平成23年10月現在において厳格に「3割ルール」を掲げているのは即席めんのみです。 とは言っても、即席めんのメーカが各社独自に、3割からさらに上積みをする事は、まずないと思います。

※今回はそば粉の配合割合のみに注目しましたが、上記のいろいろな基準には小麦粉・そば粉の質や添加物などその他の基準も定められています。

※干しそばのJAS認定機関は、「一般社団法人 乾めん・手延べ経営技術センター」です。

※乾めん類品質表示基準(消費者庁告示) 第5条第1項第3号 第3条の規定により表示すべき事項の内容と矛盾する用語

同第3条第2項  干しそばにあっては、製造業者等がその容器又は包装に表示すべき事項は、加工食品品質表示基準第3条第1項及び第6項並びに前項に規定するもののほか、そば粉の配合割合とする。ただし、そば粉の配合が30パーセント以上である場合は、この限りでない。  

■ まとめ

  • そば粉50%以上を基準とするもの   
  JAS上級の干しそば
  公正マークの付いた生めんの信州そば・出雲そば

  • そば粉40%以上を基準とするもの   
  JAS標準の干しそば
   

  • そば粉30%以上を基準とするもの   
  即席めんのそば
  JASマークがなく、配合割合の表示の無い干しそば

  • そば粉30%未満でもそばと表示できるもの   
  公正マークのついた生めんのそば(25%以上)
  配合割合の表示をした干しそば
  公正マークの付いていない生めんのそば
  沖縄そば(そば粉0%)

 公正マークやJASマークがなくてもメーカーや販売者が独自に配合割合を表示している場合は、その表示された割合になります。

今回の「そば」と呼べる境界はどこにあるか、公的基準をもとにすれば、

  • 乾めん(干しそば)の場合3割、生めんの場合2割5分のところに点線の境界がある
  • 即席めんの場合3割のところに実線が引かれているというのが結論です。

 個人的には、そば粉配合割合3割以上のそばの表示義務免除をやめて、干しそばも生めんも即席めんも全製品に配合割合の表示を義務化すべきだとおもいます。 一定の数値を表示するのが難しいのなら、メーカーが最低これ以上は入れられる数字、最低保証配合割合を、たとえば35%以上とか70%以上、あるいは1%未満とか表示しても、消費者にとって不都合はないと思うのですが。

パッケージに原材料表示があります。 これは、消費者庁告示の加工食品品質表示基準第4条により原材料の重量比で多い順に記載する事が原則です。

そば粉が一番最初にきているから、50%以上はいっているとか、そば粉が多い、だから美味しいとか言う人もいます。 製造者や販売者が言えば問題ですが,消費者が勝手にそう思い込み,美味しいように感じているのなら、夢の世界から引きずり出す必要もありませんが。

たとえば、そば粉3割、小麦粉3割、小麦タンパク・でんぷん・増粘料などで4割なら、そば粉をトップに書いても問題ありません。小麦成分が5割以上入っていてもそば粉をトップに持って来る事ができるのです。

最後にくどいようですが、 食品としてのそばの善し悪しと、そば粉の配合割合は、必ずしも一致しません。 食品としての善し悪しの最終判断は消費者自らすべき事です。

 

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