そばについてはこだわりや蘊蓄を語る人は沢山いますが、だしのこだわりってあまり聞きませんよね(すくなくとも手打ちそばに関しては)。
喜心庵でも、主役のそばの香りや味をじゃましない自己主張しないつゆを心掛けていました。だからといって手を抜いていたわけではありません。むしろ、つゆにかけたコストと手間は他のどの店にも負けなかったと思います。
文字どおり北は北海道利尻から、南は九州枕崎まで、美味しいだしを求めて歩きまわってきましたし、いろいろな種類の節を削り方を変えたり、煮だし方を変えては試してみました。
試行錯誤の末にたどりついたのが、薩摩の鰹本枯れ節だったのですが、鰹本枯れ節の味に馴れていない客様からは、「鰹の味がしない」「何のだしを使っているのか分からない」と酷評をいただく事になってしまいました。だしってホントに難しいですね。
■ 鰹節
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個人的な好みですが、鰹の枯れ節で取っただしが一番おいしいような気がします。味の厚みというか、ふくよかさというか、他ではだせない味があります。 |
かつお本枯節と
かつお箱(削り器) |
鰹枯れ節(かつおかれぶし)はカツオの身をゆでて燻して干したものに、かびを植え付けて干し、また、かびを植え付けて干す、をくり返してつくります。
かびの発酵作用で、味香りがまろやかになります。かびを付けないものは荒節と言います。高級なお蕎麦屋さんでは枯れ節を、大衆的なお蕎麦屋さんでは荒節を使うよう傾向があるようです。
鰹節の値段ということもあるのでしょうが、荒節の方が鰹らしい香りが強いので、それを好まれるお客様に支持されているようです。高級店のお客様は、そばの風味を味わえるよう、香りのおだやかな枯れ節のだしが好まれるようです。
辛口の蕎麦つゆを荒節でできないだろうかと、試してみたことがあります。だしがかえし(醤油)に負けてしまうのでしょうか、砂糖を効かせて甘口にすれば、まあまあイケテルのに甘味を控えるとなぜかまずくなる。辛口でおいしいつゆを拵えるとなると、とびっきり上等の鰹枯れ節が必要ですね。
辛口のそばつゆと言えば、小麦粉つなぎの多い蕎麦を辛口のつゆで食べると、物足りないのはなぜでしょうか。生粉打(十割)だったらすごく美味しいつゆなのに。相性があるんですね。
ちなみに、小麦粉のつなぎの多いそばは荒節のだしに砂糖をたっぷり効かせた甘口つゆのほうがおいしいようです。
雄節、雌節
雄節はオスのカツオから作った鰹節と言う人がいますが、間違い。カツオの背中の部分で作ったのが、雄節。腹の部分で作ったのが雌節です。小さいカツオは背と腹を分けずに鰹節にします。これは亀節といいます。亀から作った節ではありません。
■宗田節
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ソウダガツオという魚から作った節です。ソウダガツオは、大きさも姿もカツオと言うよりサバに近い感じの魚です。 |
宗田節 |
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砂糖との相性が良いので、宗田節のつゆは甘めに味付けされることが多いようです。だしは鰹節にくらべると旨味は少ないのですが、鰹節よりも鰹節っぽい香りが強いので、「大将、おたくのそばつゆ、鰹が効いてるね!」と、お客様にほめてもらえることを狙って使います。
そば屋のお品書きで、豚や鶏をつかったそばはよくあるのに、牛肉をつかったものをあまり見ないですよね。それは宗田のだしと牛肉との相性が悪いということもあるのかなと思います。
■鯖節
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ゴマサバからつくる節です。鰹や宗田にくらべると値段が安いので、だしをたくさん使う甘汁(かけ汁)に使います。 |
鯖節 |
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油分が多いので、だしが濁りやすく、だしをとる時には油断できない節です。
■むろ節
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ムロアジから作る節です。値段の安さから鯖節と同じような使い方をします。油分が少なく鯖よりもクセが少なくあっさりしています。 |
むろ節 |
たぶん鰹っぽいにおいがしないからでしょう。よく言えば上品、わるく言えば無個性。だしはよく出るし、値段も比較的安いので、本鰹節や宗田節とブレンドすれば、コストパフォーマンスの高いそばつゆができるんじゃないかと思っています。
※産地など
最近はどこの産地も遠洋冷凍ものを使っているので、魚のとれた場所の違いというより、加工方法の違いのほうが大きいようです。最近、安物の鰹節や宗田節の中には、塩っからい物がありますが、ブライン冷凍といって氷点下何十度以下に冷やした濃い塩水に漬け込む冷凍方法で、魚の鮮度の落ちていると塩分がしみ込むかららしいです。 |