村瀬忠太郎の『蕎麦通』と云う本によると、江戸深川浄心寺のうどん屋「ヤホキ」に、一本うどんなる名物うどんがあったそうです。
蕎麦通によると、「大きさおやゆびくらいのものが丼のうちに只一本あたかも白蛇がとぐろをまいているようにいれてある。」「極めて柔らかく口当たりがよく箸で食ひ易い長さに切り汁をつけて食ふ」とあり。また、「切り口があざやかに四角の形を保っている」ともあるので、手延べうどんではなく、包丁切りのうどんであることが窺えます。
製法を推測しますと、よく熟成の効いたうどん生地を太めに打ち、どんぶり位の大きさの竹かごのようなものに、一本づつ、とぐろ巻にしていれて、茹で釜につっこんでゆでる。
もし普通のうどんのように、茹でたなら、対流でよじれてしまって、白蛇がとぐろをまいているようにはならないだろうと思われます。また、箸で切れるほど柔らかい、しかも長さ1メートルはあるうどんを、一本づつ釜の中から引き上げるのは、至難のわざですが、かごに入れて茹でるのであれば、かごごと取り出すだけですから、簡単だろうと思われます。火加減は最初の30分は普通に茹でて、あと、90度まで温度を落として、半日。 |